「教えない指導」=なぜいま自主性を重んじる指導が推奨されるのか

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コーチが教えてくれない?

保護者の中には、子供が通うサッカーチームやスクールの指導者に対して

お金を払っているのだからもっと上達させてほしい!

もっと教えてほしい!

コーチが全然教えてくれない!

と不安になる方もいるようです。指導者が我が子に声掛けしてくれなかったり、口数が少なかったら「この指導者は本当に大丈夫かな?」「差別されているのではないか」と不安に感じたり不信感を抱いたりしますよね。

しかし、そんなに悲観する必要はないかもしれません。なぜなら、いま「教えない指導」が推奨されているからです。サッカーS級指導者ライセンス(Jリーグの監督ができる日本最上ランクのライセンス)を持つ吉永一明氏の著書に、以下のような記載がありました。

指導者になりたての頃は「とにかく教えなければ」と躍起になり、絶えず何か言葉を発していた。黙っていたら子供たちに「コイツ、何も知らないんじゃないか」と舐められてしまうのではないか、という強迫観念があった。アウトプットすることが全てで「オレはこんなに判っている」ことを証明したい承認欲求もあった。だがやがてキャリアを重ねるとともに、真逆のスタンスでピッチに立つようになった。「コイツ、本当に判ってるのか?」と、選手たちが疑問視するくらい沈黙を守る。そして何か息詰まった時に「いや、こうでしょう」と大事な一言を発することができるようになった。

『異色の指導者 ユース、高校、Jを率いて極めた育成メソッド』 吉永一明(著)

「ティーチング」と「コーチング」という言葉で比較されたりもしています。「教える」のではなく「導く」ことの違いです。

いったい「教えない」指導(コーチング)のどこが良いのでしょうか。

自主性を重視

「教えない指導」が推奨されるのは、選手自身で判断する力を磨くためです。”言われたことをただ愚直に実行するだけの選手”ではなく、”自身で考え決断できる選手”でなければ活躍することができません。

それはサッカーの競技特性によるものです。

サッカーの競技特性

サッカーは同じ状況が訪れることが二度とありません。

相手や味方選手の特徴やポジショニング(位置)が異なるだけでなく、試合の展開やスコア、天候やピッチコンディション、退場・警告の有無や怪我人など、同じようなシーンでも、プレーの決断する上で考慮すべき事項がたくさんあります。

状況が刻一刻と変化していくサッカーでは、ベンチに座っている監督の指示を待っているわけにはいきません。選手は現在置かれている状況を、自分自身で瞬間的に把握して判断しなければ、プレー速度についていくことができません。

状況が変化しつづけて、同じ状況が二度と来ないスポーツだからこそ、選手自身で状況を把握して判断する力が不可欠な要素となるのです。

判断力の磨き方

自分自身で判断する力を磨くためには、ひたすら経験を増やして、自身で良かったことと悪かったところを振り返るしかありません。

社会人になると「PDCA」(Plan計画→Do実行→Check評価→Action改善)という言葉をよく聞くと思いますが、同じようなプロセスを実践して自ら学ぶ必要があります。「やってみて、考えて、またやってみる」その繰り返ししかありません。

このプロセスの途中で、もし指導者から一つ一つのプレーに対して口出しされていたらどうなるでしょうか。選手は自身の思考を深めることができません。指導者の思考の範囲内の選手になってしまいます。指導者の思考のレベルで一流になれると思いますか?

もちろん考え方のアドバイスは必要でしょう。

狭いところと広いところでは、どちらがドリブルしやすいかな?

チャンスの時に速く攻めるのとゆっくり攻めるのはどちらが良いのかな?ゆっくり攻めたらどうなるのかな?

サイドの攻撃の選手が中に入ってきたらディフェンスはどのように守るかな?その時、どこが狭くなって、どこが空くのかな?

答えを教えてくれない指導者は怠慢なわけではありません。あなたが「教えてくれない」と感じていた指導者は、選手自身の判断力を養うためにあえて口数を減らして、部分的にアドバイスをしていたのかもしれません。

ダメな指導

反対に、選手自身で判断する機会を奪う指導からは遠ざかった方が良いと思います。中でも、暴力暴言などの恐怖により選手を動かそうとする指導は論外です。

暴力暴言で自主性が養われることは決してありません。むしろ周りの評価を気にしすぎたり、怒られないようなプレーを選択したり、競技には関係ないところに注意が向いてしまい、勝負弱い選手になってしまう恐れさえあります。

また、自主性を重んじて見守ることと「放任」は異なります。例えば、イジメを放置することは、見守りではなく放任です。考え方のアドバイスさえしないのはただの怠慢です。

判断の線引きが難しいかもしれませんが、子供達の表情や練習への集中力などで違いが分かるのではないでしょうか。子供達がつまらなそうに、ダラダラとプレーしていたら良い指導ではないということでしょう。

家庭で気をつけていること

自立を促す

せっかく指導者が子供の自主性を尊重しようとしているのに、家庭で台無しにしてしまっては元も子もありません。我が家は過保護ぎみの私の妻を何回も説得して、なるべく子供に手出し口出ししないようにお願いしました。

・起床の時間
・学校やサッカーの持ち物準備
・忘れ物
・服装
・あらゆる時間管理
・洗濯物や洗い物を出すこと
・ゲームの時間
・お菓子のカスの掃除
・食器の片づけ
・宿題や練習をさせようとすること
・プレーの良し悪しのこと
・兄弟ケンカの仲裁 などなど

自分でやってみて、失敗して、そこから学んで、次にどのようにすれば良いか考える機会をなるべく多く提供すること。その失敗談や成功体験に汎用性を持たせられないかを問いかける。

例えば、すね当てを忘れていることに気づいても言わないし代わりに準備することもない。すね当てを忘れたら試合に出場できないけど、自分が忘れたんだからしょうがない。その「忘れた」という事実から何を学ぶことができるのか。次は忘れないようにどのような工夫をするのか。その工夫を他のことにも応用できないか。

この小さな積み重ね、PDCAのプロセスをなるべく多く積ませたいと思って、手出し口出しを控えるように意識的に注意しています。サッカーの上達と、根源的な目的である幸せな人生を歩むために「自立」の観点から子供のサポートを見直してみています。

自身に注目させる

我が子の上達を指導者任せにしようと思う時点で、他者任せの思考になっていることに注意が必要だと思います。

上手くなるのは選手自身であるはずなのに、上手くできない理由を指導者のせいにする。試合に負けた時に「相手が強かったからしょうがない」と自チームではなく他者に原因を考えようとする。

もちろん勝敗の観点では、考えすぎずに次に切り替える視点は必要だと思います。ただし、試合に負けた原因を自分なりに考えて改善していこうという意欲がなければ上達していくことはないと思います。

他者のせいではなく、自分自身に焦点を当てて考えられるかどうか。親自身が自身ではなく他者のせいにするような発言をしていないか。我が子が周りのせいにしようとした時に「じゃあその時にあなたは何ができたと思う?」と自身に注目させるような声がけをする。そんなことを注意して日々接しています。

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この記事を書いた人

元フットサル選手の父
スポ少チームで万年補欠だった小5息子が「プロになりたい」と言う。小4冬に高圧的指導・長時間練習に耐えきれなくなりチームを退団。小5春から新しいチームで再出発

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